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専門職としての落ち着き

最近、週刊モーニングに連載されている「コウノトリ」という漫画を毎週心待ちにしているのだけど、今週、印象的なフレーズがあった。

主人公は産科医、場面は彼が若き研修医だった頃の回想シーン。深夜、他に正規の産科医がいない中、突発的に被膜児のお産が起きてしまって主人公がオロオロ、そこで助産師さんが割って入って、ベテランならではの応急処置で危機を回避しつつ、主人公に向かって言う。

「なんて顔してんの、さっきから。患者さんの前でもそんな顔してたわよ」

「研修医だからって言うのは、あなただけの言い訳で、患者さんにしたらあなたは産科医なんだよ」

「不安なときこそ、笑顔で患者さんと接しなさい」

こういった、内心の焦りを決して外に見せてならない、プロフェッショナルとして精神的に安定した状態で、落ち着いて対応しなければならない、というのは、医師に限らず、弁護士、その他の専門職全般に共通して言えることだろうと思う。もちろん、人である以上、プレッシャーや焦りや不安感、動揺は、状況によって当然に生じるけれど、いかにそういった精神状態をうまく処理するかということも専門職に必須の能力かもしれない。

かなり以前、シニアーパートナー弁護士が、自らの元に配属された民事修習中の司法修習生と一緒に、紛争案件を検討したときの台詞を思い出す。そのシニアパートナーは、実家が成功した実業家であるからか、一般の弁護士とは事業の勘所、商流、お金の流れに対するセンスが全く違っていて、交渉ものでも、依頼者経営陣から(ときには交渉の相手方上層部からさえ)信頼を得るのがとても上手だった。

彼は、司法修習生に対し、事案の理解を深めるような質問や必要な情報を引っ張りだす質問を立て続けに上手に繰り出し、そのうちに、3人全員、この件のあるべき道筋がAかBというものか、いずれかであることがみえてきたのだけれど、同時に、修習生のみならず、私も次第に議論についていけなくなった。そんな瞬間に、彼は修習生に対して、

「で、最終的に依頼者にどっちすすめたらいい?」 

と聞いた。修習生は、もう全く分からないという表情をありありと浮かべ、私も修習生の手前、一見堂々とした素振りでいたものの、こっちに振られたらどうしようか、何と答えようか、理由付けはどうしようか、そもそも正解がどちらなのか、内心、とても困ってしまった。そんな中、シニアパートナーは、破顔しながら、

「答えはね、どっちでもいいんだよ。答えなんてないんだよね、いろいろな考え方あるからさあ。でも、そうやって自信なさそうに喋っちゃダメ。依頼者、不安になるから。どっちの方向でもいいから、安心させるようにきちんと説明して一つの解決を提示しないと。」 

と諭すようにいい、まあ隣にいた私は事なきを得たのだけれど、今でも、折に触れてこのときのことを思い出す。

さすがに、あのときからそれなりの年月が経ち、ここ数年は事業や組織そのものに影響を及ぼしかねない修羅場を前面にでて解決する場面なども多少は経験してきたため、少しは成熟し、周囲に安定していると思われる事も時折でてきた気もする。それでもいまだに反省の日々。

こういった仕事は、サッカーのポジションに例えればセンターバック、以前、サッカー日本代表の吉田麻也選手が仰った話に共感するところもある。

24歳にしてこういう境地に達している吉田選手はさすが第一級のプロフェッショナルという他ないが、若手から中堅の専門職にとって、とても参考になるメンタリティだと思う。