IT法務:シリコンバレーのプロダクト・カウンセル

「IT法務」という言葉に接した。これは結構多義的な言葉のようで、例えば、デジタルやオンラインのサービスと著作権の問題だったり、プロバイダ責任制限法関連の領域だったり、あるいは、システム開発契約の交渉や契約後の紛争を指していることが多い。そのため、IT法務に詳しい弁護士というと、典型的には、Winny事件で金子氏の最高裁無罪判決を勝ち取った壇弁護士や、プロバイダ責任制限法の事件を多数手がけておられる神田弁護士のお名前が挙ったりする。

今回ご紹介したいのは、これらとは少し違った趣きの、シリコンバレーやベイ・エリアでプロダクト・カウンセルというカテゴリに入る弁護士。これは日本では馴染みがない職種だが、大雑把に言うと、知的財産権、業法規制、消費者法、プライバシー分野等の知見があって、テクノロジー企業内でエンジニアリング部門やプロダクトマネジメント部門と協同・連携し、サービス展開に向けてリスク分析と法的助言に専念するタイプの企業内弁護士。法律事務所時代は訴訟弁護士だったケースが多く、ロー・スクール入学前は理系の研究者・技術者という例も珍しくない。

米国のテクノロジー企業にとって、サービスに起因するリーガル・リスクはときに無視し得ないレベルまで高まることがあるので、リスクをコントロールするため重要な役割を担う。Google Book Search や Youtubeの訴訟が典型的な例で、Googleを描いた本、グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へなどでも、こうした文脈で著名なプロダクト・カウンセルたちが登場する。

西海岸のインターネット企業で従業員の高学歴化が進んでいることと平仄をあわせた傾向なのか、プロダクト・カウンセルも実に経歴の素晴らしい人が多い。私の知人には、著名なインターネット関連の非営利団体に少し籍を置いた後、ハーバード・ロー・スクールに進学、卒業後に連邦控訴裁判所で判事の調査官を1年間務め、全米でも訴訟分野で大変に高名な法律事務所でアソシエイトとして勤務し、そのシニア・アソシエイトからインハウス・ローヤーに転じて、シリコンバレー、ベイ・エリアのインターネット企業で勤務中といった、およそこの分野ではこれ以上の経歴は採り得ないだろうというような人もいる。

翻って日本ではどうかというと、米国のようなプロダクト・カウンセルは寡聞にして聞かない。一つには、法的リスクの高低があるのかもしれない。確かに、JR東日本のSuicaデータ社外提供など世間を騒がせる例もあるが、Viacom v. Youtube のような10億ドルの訴訟というような巨額のリスクではないので、企業としては、米国式のやり方を真似る必要はないのかもしれない。