専門スキルとその他のスキル

クーリエ・ジャポン 11月号に、ヤフーの安宅さんによる「これからのビッグデータ時代に必要とされる人材の条件とは」との記事があった。

記事後半で「専門スキルに依存しない」と題するお話があって、印象に残ったので少しご紹介。

私は、スキルは「基礎スキル」「専門スキル」「リーダーシップ」の3つに分類することができると考えています。一般にスキルと呼ばれるものは、経験によって身に付く専門スキルのことだと考えられがちですが、どんな組織においても役立つのは基礎スキルとリーダーシップのほうです。

(中略)

専門スキルは年月をかけて身に付けていくもので、これがなければ必要とはされません。しかし一方で、専門スキルに依存しすぎるのも問題です。手に入れるのに時間がかかるのに、風化しやすいのが専門スキルだからです。たとえば、プログラマーの場合だと、せっかく複数のプログラミング言語を覚えたとしても、新しい言語が主流になれば、それまでの知識は価値を失います。

その点、基礎スキルやリーダーシップは色あせません。そして、どんな組織に必要とされるのです。

言われてみると当たり前かもしれないけど、弁護士のような専門職では「専門スキル」への傾倒が激しく、ついつい、こうしたことは忘れがち。

新人弁護士が中規模以上の企業法務事務所に就職する場合、「専門スキル」を身につけるためには最も恵まれた場所だろう。ただ、法律事務所は、弁護士事業のために最適化された、大変にユニークな組織であり、また、事務所規模が大きくなると、業務内容も高度に専門化された特異な世界。アソシエイトという立場では、安宅さんの仰る「基礎スキル」すら、やや狭い範囲で意識するに過ぎないかもしれない。まして、「リーダーシップ」といった意識は限定的で、特に「弁護士たるもの一人一人が独立した職人であり、独立した事業者である」といった専門職としての心意気が強すぎたりすると…。

そうはいっても、誰もがいつまでも事務所のアソシエイトではいられない。そのうちに、パートナーとして事務所の運営にあたるかもしれないし、外に出て、組織の中で働くようになるかもしれないし、独立するかもしれない。あるいは、法律事務所で専門スキルに軸足をおいて残ることが許されたとしても、上のプログラマーの例のように、最先端とされていた分野が10年ほどであっという間に陳腐化することも珍しくない。この10年の歴史を紐解いても、資産流動化から買収防衛策から職務発明から、どれほど華々しく取り上げられたとしても、それが永続することは決してない訳で、それを考えると、アソシエイトの若い時期から、こういった「専門スキル」以外の視点を忘れないほうがよさそう(残念ながら、法律事務所の中では、あまり触れる機会がなさそうだけれども…)。