感想:『日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか』

この本は、山田奨治教授が日本の著作権法改正の舞台裏をていねいに描いたもので、2011年出版の『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』の続編。

一般に、弁護士や法学部生・ロースクール生は、職業柄どうしても

「現行法がどう解釈されるのか?」

という法律の世界に強い親和性があって、

「どうしてこういう法律が成立したのか?」

という政治の世界はすこし苦手です。でも、実際の立法過程はドロドロした人間のナマの営みであるはず。ときには、法律書では触れられない背景に意識を向けることも大切かと…

違法ダウンロード刑事罰化に関して、山田教授は

農業や土建に関することと違って、著作権のことはそもそも票にはならない。一定数の有権者がいる票田のようにみえるネット・ユーザーの側に立ってみても、それが実際の選挙結果には結び付かない。政治家の側にしてみれば、そうした現実を突き付けられた「祭り」のあとだった。

と指摘しています。

逐条解説で立法趣旨をみても、こうした話は絶対にでてこないし・笑、

違法ダウンロード刑事罰化で日本の音楽業界は息を吹き返したろうか。2011年に3539億円だった音楽ソフト市場は、翌年には3651億円に回復したものの再び下落し、2014年には3000億円を割り込んだ。本書の執筆時点で、違法ダウンロードによる検挙者はひとりもいない。

という視点からの犯罪構成要件の説明も稀です・笑

著作権法をテーマにした本ではありますが、立法過程を知るという意味で、著作権に直接興味のない人にとっても、とても参考になると思います。

それにしても、この本で黒幕的な扱いをされている米国…

世界に類のない強力な権利者団体を国内に抱えて、世界中に権利者側に有利な改正を輸出しているのは事実であるとしても、、、

一方、アメリカ国内では、DMCA、フェア・ユース、CDAといった今日の米国インターネット事業者の繁栄の礎となったユニークな法制度を作り上げているので、一筋縄ではいかない、なんとも懐の広い国だと思わざるを得ません…